発生学2 心脈管系

血管系の発生では、まず間葉細胞から生じた血管芽細胞が凝集した血島が形成され、これが腔を生じつつ分化することで血管が、またこの血管芽細胞が別に分化して血球が形成される。
 
・はじめの脈管形成は卵黄嚢においておきる。

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心臓原基の形成
第3週ごろに口咽頭膜付近の中胚葉から造血管索が生じる。これが管状化して心内膜性心筒となり、胚子の側屈に伴ってこれが癒合することで1本の心筒が形成される。この心筒は心膜腔内に突出していき、頭方と尾方端の血管で心膜腔内につり下げられるようになる。こうした変化をしているうちに心筋が肥厚し、また心外膜が形成される。

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心臓ループの形成
心筒は上から心球・心室・心房とふくらみを形成しながら成長を続けるが、周囲の部分よりも成長が速いために次第に腹側からみて反時計回り方向に弯曲をはじめ(心臓ループの形成)、心房が心室の上にくるようになる。また、この際に心房は心膜腔内に取り込まれる。
・・胚子の頭屈がおきることによって、心臓は相対的に口咽頭膜付近の頚部から胸部へと下降していく。

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静脈洞の発達
左右の静脈洞卵黄嚢静脈臍静脈総主静脈を受けている。しかし前主静脈が短絡する(左腕頭静脈になるものによる)ことと卵黄嚢静脈と臍静脈の変化(左臍静脈が退行するなど)によって右静脈洞に血流が切り替えられる。この結果右静脈洞が大きくなり、右心房内に取り込まれて右心房の平滑壁部を形成するようになる一方、残った左静脈洞は冠状静脈洞を形成する。また左心房の壁の大部分は原始肺静脈をとりこむことで形成され、心房が拡大することによって左心房から4本の肺静脈がでるようになる。
・・静脈洞が心房に取り込まれることで静脈から心房への入り口である洞房口には左右の洞房弁が形成される。この弁の上側は静脈洞が心房に取り込まれるとともに心房中隔に癒合するのに対し、下側は下大静脈弁冠状静脈洞弁となる。
 
 
心臓中隔の形成
中隔の形成には二つの様式があり、ひとつは心房と心室が形成される際にみられるような一部を残して他が成長するためにくびれができることによるもので(これだけでは区切りは不完全)、もうひとつは心内膜が内側へ隆起することによる。
 
心房中隔
心房の天井から心内膜隆起によって一次中隔が下側に伸びていく。この際に下端に隙間が残され、これを一次孔とよぶ。さらに心内膜隆起がすすむと一次孔は閉鎖されるが、同時に一次中隔の上部に孔がひらき、それらが合体することで二次孔が形成される。次に心房が動脈角を吸収するのにともない心房天井部から筋性の二次中隔が下りてくる。二次中隔は二次孔を塞ぐくらいのところで成長をやめ、残された二次孔の部分を卵円孔とよぶ。一次中隔の上部は次第に消えていくが、残された部分は卵円孔弁として機能するようになる。

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房室管における中隔
心房と心室をつなぐ房室管ははじめ左室にのみつながっているが、後に右方向に拡大して右室とも連絡するようになる。この房室管の上下と外側(左右)の4方向から心内膜隆起がおき、房室管は左右に分けられる。
 
房室弁
房室口を取り巻いて間葉組織の増殖がおき、その心室側の部分が血液によってくりぬかれ索だけが残る。これによって弁が形成される。

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動脈幹と心円錐
心室から血液がでていく経路もはじめは一つの管状である(心球)。心球の上部では、内部に動脈幹隆起が生じることで大動脈肺動脈中隔が形成され、大動脈と肺動脈幹の2つの部分にわけられる。この際にねじれるようにして隆起が形成されるために、これらの血管はねじれるように存在するようになる。また心球の下部(心円錐)も、同様に円錐隆起が大動脈肺動脈中隔と連続してラセン状に生じ、癒合して円錐中隔となって右室と左室の流出路として分断される。
 
心室中隔
下側から筋性の心室中隔が成長し、心室間孔を残して停止する。ここに上から心円錐の円錐中隔が形成されてくるとともに心室間孔は小さくなり、さらに下側から心内膜の隆起が生じて円錐中隔と癒合し、これが心室間孔の閉鎖後は心室中隔の膜性部となる。

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半月弁(大動脈弁・肺動脈弁)
動脈幹に形成された隆起の上側が陥没していって弁だけがのこる。

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刺激伝導系の形成
静脈洞に存在していたペースメーカー部位が静脈洞の右房への合体とともに洞房口付近に位置するようになり、洞房結節となる。
房室結節と房室束/ヒス束は静脈洞の細胞と房室管の細胞に由来し、ここから延びた線維が心筋全体へ分布する。その後、結合組織性の細胞が心外膜から進入して心房と心室をわける(心臓骨格の形成)ために、この線維が心房から心室への唯一の経路となり、刺激伝導系として確立する。
 
 
動脈
 
動脈弓
鰓弓は独自に脳神経や動脈を受け入れるが、動脈弓は動脈幹の最末端である大動脈嚢から鰓弓へと伸びた血管から構成されている。このようにして鰓弓へとのびることで形成される6対(うち1つは不完全で実質は5対)の動脈弓はそれぞれ独自に形成され、一部を残してやがて退縮していく。
第1動脈弓 一部が顎動脈に
第2動脈弓 一部が舌骨動脈とアブミ骨動脈に
第3動脈弓 総頸動脈になり、内頸動脈と外頸動脈の起始部にも関係する。
第4動脈弓 左は大動脈弓になり、右は右鎖骨下動脈に
第5動脈弓 すぐに消失
第6動脈弓 肺動脈弓に。また右側は動脈管(→動脈管索)を形成する
・・心臓の位置が下方に移動するにつれて頚動脈など縦に走るものは伸長する。反回神経はこの際に動脈弓に引っかかっているため下りてから再び上がるという走行をとるが、動脈弓の消滅が左右非対称であるため反回神経も非対称になる。

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卵黄嚢動脈と臍動脈
卵黄脳動脈は消化管の背側腸間膜に分布する3つの動脈を形成する。腹腔動脈(前腸)、上腸間膜動脈(中腸)、下腸間膜動脈(後腸)。
臍動脈は総腸骨動脈と結合し、起始部は内腸骨動脈上膀胱動脈として残るが遠位部は閉塞して臍動脈索となる。
 
四肢の動脈

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静脈
卵黄嚢静脈の遠位部は成長中の肝臓と合流して肝シヌソイド門脈を形成する。また近位部は左静脈洞の縮小の影響をうけ、左は一部消失する一方で右は下大静脈の肝心部上腸間膜静脈を構成するようになる。
臍静脈は右臍静脈の一部が消失するとともに左臍静脈が肝シヌソイドに結合するが、胎盤の血流量が増すにつれて直接のバイパスである静脈管(→静脈管索)をつくる。
・・肝シヌソイドは、腎臓の糸球体みたいな、肝臓のなかの血管の構造。

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主静脈
最初、主静脈が胚子の主な灌流系となっている。これは頭部を灌流する前主静脈とそれ以外の部位を担当する後主静脈からなり、これらは静脈洞にはいる直前で癒合して総主静脈となっている。
ここに発生5〜7週になると多数の静脈が追加形成される。主なものに主上静脈、主下静脈、仙骨主静脈(下肢)があり、主上静脈は後主静脈の機能を受け継ぐ。この後、左から右への切り替えに伴って左右の吻合が形成される。
前主静脈(右) 上大静脈、右腕頭静脈に
前主静脈(左) 左心房斜静脈に
主上静脈(右) 奇静脈に
主上静脈(左) 縦の連結がなくなるため半奇静脈に
主下静脈(右) 下大静脈の腎分節に
主下静脈(左) 左生殖腺静脈、左右が吻合して左腎静脈に
仙骨主静脈(右) 下大静脈の仙骨主静脈分節に
仙骨主静脈(左) 左右吻合して左総腸骨静脈に

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胎児循環
胎盤から酸素と栄養が供給されるため、肺での呼吸と肝臓での代謝は必要がなく、迂回する。
・静脈管は肝臓を迂回する
・卵円孔・動脈管は肺循環を迂回する
・・動脈弓で上体への血管がわかれた後で動脈管(静脈血ぎみ)が合流するため、上体のほうが高酸素・高栄養の血液がいき、胎児は上半身に比べて下半身の成長が悪くなる。

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・肝シヌソイドの静脈管には括約筋があり、子宮の収縮により静脈血量が過剰になるときには収縮して心臓の負荷をへらす
胎盤血のほとんどは左心房に入るが、少量は二次中隔下縁の分節櫛によって右心房に入る。
・右心房→右心室と流れた血液は肺動脈幹に注ぐが、胎児期の肺は血管抵抗が大きいため動脈管を通って下行大動脈に合流する
・臍動脈(臍動脈索)、動脈管(動脈管索)、臍静脈(肝円索)、静脈管(静脈管索)などは、平滑筋によってすぐに閉鎖したあと、血管が内皮が増殖して完全に閉塞する。
・卵円孔は 動脈管の閉鎖→肺血流量増加→左房の圧力増加 と、胎盤血液の遮断による右房の圧力低下によって一次中隔が二次中隔に押しつけられて閉鎖し、さらに1年ほどたつとそれらが癒合して完全に閉鎖する。
 
 
心循環系の原基が認められるようになってから遅れること2週間、第6週の終わりにリンパ系は発生をはじめる。
・胚子期の終わりには頸リンパ嚢や腸骨リンパ嚢、乳ビ槽などのリンパ嚢が生じる。ここに血管と同様の発生のしかたで生じるリンパ管が連続し、大きな吻合がリンパ系のなかで形成される。またリンパ嚢はリンパ節となる。
・リンパ球ははじめ卵黄の、後には肝臓や脾臓の幹細胞に由来し、それが骨髄や胸腺へと移動し成熟することで分化する。
・扁桃はリンパ節の集合から発生する。
 
 
 
 
 
血管の分子的誘導
血島→(脈管形成)→血管→(血管新生)→新しい血管→・・・
FGF2に誘導されて血管芽細胞ができる
・血管芽細胞は血島中心部では造血幹細胞に、血島周縁部では血管前駆細胞に分化する。
・・周囲の中胚葉細胞から分泌される血管内皮増殖因子/VEGFによって血管芽細胞の分化や血管新生が刺激される。
 
・造血幹細胞ははじめ血島からできるが、後に大動脈−生殖巣−中腎部域/AGM、肝臓、さらに骨髄と生じる部位が変化していく。
 
 
心臓発生の分子的制御
・頭方の内胚葉からのBMP2、BMP4、Wnt(中胚葉からのシグナルで抑制性)のシグナルが転写因子NKX2.5を活性化し、これがその上を覆う臓側中胚葉を心臓発生域へと誘導し、また後に刺激伝導系の分離と発達にも作用する。
・・TBX5は中隔形成に関係する。

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