発生学3 呼吸器系・消化器系

呼吸器系
呼吸器系は前腸腹側壁がふくらみだし、呼吸器憩室/肺芽を形成する。憩室が拡張するにともない、両側から気道食道稜が発生して気道食道中隔を形成することで、前腸から分離される。
・呼吸器系は前腸由来であるため、その上皮はすべて内胚葉に由来する。気管などのまわりの軟骨や筋、結合組織は、前腸をとりまく臓側中胚葉に由来する。

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肺芽は気管と2本の主気管支を形成し、主気管支はさらに右で3つ、左で2つの二次気管支を形成する。これらが心腹膜管(心膜腔と腹膜腔が連結してる部分)とよばれる体腔へ進入して成長し、右3葉・左2葉の肺が形成される。心腹膜管は胸腹膜ヒダと胸心膜ヒダによって区切られ、胸膜腔となる。

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胎生期の最後2ヶ月ぐらいから終末嚢が着実に増加し、毛細血管が終末嚢にふくれ出すようになってくる。これとともにⅠ型肺胞細胞が形成する肺胞壁が次第に薄くなり、毛細血管やリンパ管と密接に結合するようになることで血液-空気関門が形成される。またⅡ型肺胞細胞からは界面活性物質が分泌される。出産前の肺は気管支腺からの粘液やⅡ型肺胞細胞分泌液などからなる液によって満たされている。

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発生の時期による分類
1,線状期/腺様期(〜胎性17週ごろ) 盲管状に終わるため呼吸できない
2,細管期/管状期(〜胎性6か月ごろ) 肺組織は血管に富むようになる
3,終末嚢期(〜胎性後期) 終末嚢が発達してガス交換が可能
4,肺胞期(〜8歳ごろ) 
・・胎児の呼吸運動は出産前にはじまり、羊水の吸引をおこす。この運動は肺の発育を刺激し、呼吸筋を準備するために大切である。吸引された水は毛細血管やリンパ管により吸収されるが、界面活性物質は残り肺胞を被膜する。
・・生後の肺の成長は主に呼吸気管支と肺胞の数の増加により、肺胞の数は生後10年間くらいの間増え続ける。
 

消化器系
胚子の折りたたみの結果、内胚葉に囲まれた卵黄嚢腔の一部が胚体内に組み入れられて原始腸管となる。この原始腸管は前腸中腸後腸を形成する。中腸は卵黄嚢とつながっており、後腸からは胚体外の尿膜が分岐している。また、前腸からは呼吸器系の咽頭も形成される。
胃や腸のように腸管がそのまま分化するものと、肝臓、胆嚢、膵臓、(脾臓(リンパ性器官))などのように腸管から出芽するような形で形成されるものがある。
 
前腸 十二指腸の途中まで
中腸 十二指腸から横行結腸の右から2/3まで
後腸 横行結腸の左側1/3から肛門上部まで
 
 
前腸
食道
前腸の腹側壁に呼吸器憩室/肺芽が形成され、呼吸器と食道がわかれる。食道ははじめ短いが、心臓と肺の下降にともなって急速に伸長する。上2/3は横紋筋で下1/3は平滑筋だが、両者とも迷走神経に支配される。
・ラングマンには平滑筋部分は内臓神経叢に支配されるとあるが、間違い・・・?
 
 
前腸の拡張部が頭尾軸方向に90°回転し、左側が前にくる。この回転中にもと後方部は前方部よりも成長が速いため、大弯と小弯が形成される。さらに前後軸方向に回転し、噴門部が下がり幽門部が上がることで最終的位置をとる。

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はじめに背側にあった背側胃間膜は回転によって 左→左下 方向に移動し、たるんだ網嚢となり、この弛んだ袋の裏表がくっつくことで大網を形成する。また腹側胃間膜は 右→右上 方向に移動し、小網肝鎌状間膜となる。こうした移動により脾臓の背側胃間膜は後腹壁と癒合し、脾臓の腹膜後器官としての位置も定まる。
・網嚢とは膜の間の間隙のこと。大網が癒合しても一部にまだ残る。
・大網は結局、4枚の腹膜から形成されることになる。
・小網は十二指腸や肝臓につながる。
・肝鎌状間膜は肝臓から前方の腹壁につながる間膜である(小網は肝臓から後方の胃につながる)。
・肝鎌状間膜は臍静脈をふくんでおり、肝円索をもつようになる。
・・頭尾軸方向の回転のため、胃の前面は左迷走神経支配で、後面は右迷走神経支配になる。
 

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十二指腸
前腸の末端と中腸の頭方部から形成される。胃の回転にあわせてC字型のループをなして右に移動する。十二指腸と膵頭は背側体壁に押しつけられ、背側十二指腸間膜が腹膜と癒合して消失するために、腹膜後位に固定される。
・前腸と中腸から形成されるため、腹腔動脈と上腸間膜動脈の両方をうける。
 
肝臓と胆嚢
肝臓は前腸末端(十二指腸になるところ)の腹側から肝窩/肝芽として出芽し、横中隔内に伸びていく。肝芽が伸びていく間にその途中から胆管ができ、これが胆嚢と胆嚢管になる。
クッパー細胞や造血細胞、結合組織細胞は横中隔の中胚葉に由来する。
・横中隔由来の中胚葉が膜状となり、小網と肝鎌状間膜(2つあわせて腹側胃間膜)の形成に寄与する。
・・肝臓は成長中に卵黄嚢静脈と臍静脈とまじりあい、肝シヌソイドを形成する。
・・発生期には肝臓は造血機能をもつが、これは後に退化する。

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十二指腸の内胚葉上皮に由来する腹側と背側の2つの芽体から形成される。十二指腸がC字型になるとともに腹側が背側のすぐ下にくるように移動し、これが癒合してひとつの膵臓となる。腹側が鈎状突起と膵頭下部を形成し、のこりは背側由来である。(上図も参照)
はじめ、背側の膵は小十二指腸乳頭にひらき腹側の膵は大十二指腸乳頭にひらくが、後に導管が癒合して主膵管となり、背側の膵も大十二指腸乳頭にひらくようになる。
・・背側の膵−小十二指腸乳頭という経路をたどる副膵管が残ることもある。

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中腸
中腸では腸間膜が急速に成長した結果一次腸ループが形成される。これは肝臓の成長とも相まって腹腔内におさまりきらなくなり、臍帯内の胚外体腔へと脱出する(生理的臍帯ヘルニア)。
・中腸ははじめ卵黄嚢と交通していたが、ここでは卵黄嚢ではなくあくまで臍帯のほうにいくことに注意。このころには卵黄嚢はしぼんでいる。(卵黄嚢と付着茎(→臍)ははじめ胎児の別の部分から飛び出していたが、羊膜が裏返って両方をつつみつつ胎盤につながることで、はじめに羊膜の腹側の外側にあった部分は全部際の中に入ってしまうようになるから、卵黄嚢も付着茎もどちらも臍にふくまれているような形になる)

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腸の成長とともに腸ループは上腸間膜動脈を軸として腹側からみて反時計回りに270°ねじれる。その後、腹腔内が拡張するのに合わせて腸ループは腹腔内へと戻る。このときはじめ腹腔の左側へと入り、あとからくるものがその右側に収まっていき、盲腸芽が最後に腹腔へと戻る。この盲腸芽がその後下降していき、上行結腸と右結腸曲を形成し、その遠位部には虫垂ができる。

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腸ループの移動によって腸間膜も変化する。背側腸間膜は上腸間膜静脈の起始部からねじれ、上行および下行結腸が最終的な位置をとるとそのほとんどは後腹壁に押しつけられるが、S状結腸など一部の部分では押しつけられていない自由腸間膜が残る。また、前面には胃から下がる大網が位置する。これは横行結腸と癒着するとともに上行・下行結腸にも付着する。(図は大網があるときと、大網をはがしたとき)

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後腸
後腸の末端は排泄腔後部の原始直腸管にひらき、尿膜は排泄腔前部の原始尿生殖洞にひらく。排泄腔は排泄腔膜によって外界から隔絶されている。ここから中胚葉由来の尿直腸中隔が成長し尿膜と後腸を分離する。
排泄腔膜は尿直腸中隔と癒合したあと一度破れるが、そこに肛門膜が形成され後腸は再び外部と隔絶される。肛門膜は後に破れ、消化管は羊膜腔と交通するようになる。
・・このように肛門の部分は腸ではなく外胚葉由来の排泄腔から発生するため、内陰部動脈の枝である下直腸動脈から血液をうける。一方で肛門の上部は紅潮由来であるため、下腸間膜動脈の続きである上直腸動脈から血液をうける。

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腹膜について
腹膜には背側腸間膜と腹側腸間膜由来のものがあるが、中腸以下では腹側腸間膜は存在しない。しかし腹側間膜が存在しない部位でも、後に胃から背側腸間膜由来の大網がおりてくるため、前面に腸間膜をもつことができる。(3つ上の図)
・腹側腸間膜に由来する間膜には、小網や肝鎌状間膜

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がある
 
十二指腸以下の部分に腹側腸間膜が存在しないのは次のような理由だと考えた。(いまいち理解しきれていないが)。
 
1,普通に卵黄嚢との交通が断たれる部分では、下の上の図C3のように連絡が絶たれることによって腹側腸間膜が生じる。
2,一方で下の下の図のA「胚内体腔がある」と書いたやつ)において、C断面よりもちょっと頭部の部分や尾部の部分では、ピンクの羊膜と胎児との間に隙間があると考えられる。そのような部分では下の上の図D3などのように腹側腸間膜が生じない。また卵黄嚢と付着茎の間の部分も胚外体腔と交通しているために腹側腸間膜が生じない。これらの部分は卵黄嚢が引っ込むようにして収まることで結局は全部つながり、D3のような断面で腹側腸間膜をもたないままとなる。
・・卵黄嚢と付着茎の間の胚外体腔との交通部は、中腸ループが生理的臍帯ヘルニアを起こす際にも利用する。
3,もっと下の臍の部分よりも下の領域では、十二指腸よりも上の部分と同様にはじめは腹側腸間膜をもつが、それは下の下の図Fのように後に消失してしまう。
 

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そうしたことが起きる結果、最終的に腹側腸間膜は肝鎌状間膜と小網の部分だけに存在するようになる。

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腸管形成の分子的制御

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消化管の層構造の分化
腸管中胚葉は潜在的に平滑筋を形成する能力をもつ。しかし内胚葉から分泌されるShhが中胚葉での平滑筋活性化タンパク質Smapの発現を抑制することにより、平滑筋の発現は外層のみにかぎられて粘膜固有層と粘膜下層が形成される。またShhはBMP4の発現を促進し、それにより腸管神経細胞を外層の粘膜下層(マイスナー)などに制限する。

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肝臓誘導の分子的制御
・前腸の内胚葉はどの部分でも肝臓特異的遺伝子を発現して肝組織に分化する能力があるが、抑制因子によって阻止されている。この抑制因子が心臓部の中胚葉から分泌されるFGFによって阻害されることで、肝臓となる区域では肝への分化能が発揮される。
・肝への分化がはじまると、肝臓領域の細胞は幹細胞と胆路を構成する細胞へと分化するが、その過程には幹細胞各転写因子HNF3,HNF4が関係しているとされる。
 
膵臓発生の分子的制御
脊索で作られたFGFとアクチビン(TGF-βファミリーのひとつ)がShhの発現を抑制し、その結果として膵十二指腸ホメオボックス1/PDXの転写が促進される。
PAX4PAX6の両方が発現するとβ細胞、δ細胞となり、PAX6

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