発生学6 平衡聴覚器

平衡聴覚器

成人では耳は聴覚と平衡覚を司る1つの解剖学的単位となっているが、外耳・中耳・内耳は明らかに異なる部分からそれぞれ発生する。
 
 
内耳
発生22日の胚子で神経管が陥入しているころ、菱脳の両側の体表部分の肥厚として耳板が形成され、急速に陥入して耳胞となる。耳胞の形成中にその壁から内耳神経節が生じ、これが後にラセン神経性節と前庭神経節にわかれてコルチ器と卵形嚢・球形嚢を支配するようになる。

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球形嚢・蝸牛・コルチ器
耳胞腹側部に生じた球形嚢から下側に管状突出を生じ、周囲の間葉をまきながららせん状に2.5回転して蝸牛管となる。また蝸牛管と球形嚢の結合部は搾られて結合管となる。

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耳胞を取り囲んでいる間葉は軟骨に分化し、これが後に骨化することで骨迷路が形成される。蝸牛管のまわりでは、周囲の軟骨中に空胞が生じることによって前庭階鼓室階が形成される。これによって蝸牛管は前庭膜によって前庭階から、基底板によって鼓室階から隔てられているようになる。このとき、蝸牛管は外側壁ではラセン靭帯によって付着しているが内側角は蝸牛軸として結合している。

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蝸牛管の上皮細胞は発達に伴って分化し、 内側隆起と外側隆起を生じる。内側隆起は後にラセン板縁となり、また外側隆起には有毛細胞が生じ、コルチ器となる。

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卵形嚢と半規管
半規管は耳胞の卵形嚢部から扁平に突出することで出現し、突出部の縁以外の壁の両面が癒合して消失することで管だけが残り形成される。各半規管の付け根の一端は拡張して膨大部脚となり、のちにこの部位に感覚細胞を有する膨大部稜が生じる。
・・半規管の膨大部脚とならないほうの付け根は非膨大部脚とよばれるが、これのうち2つが癒合するために卵形嚢には5つの脚が開いている状態になる。

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中耳
鼓室は第1咽頭嚢の耳管鼓室陥凹に由来し、これが拡張することで原始鼓室となる。この近位部は拡張せず狭いままで残り、耳管/ユースタキー管となって咽頭鼻部につながる。
耳小骨のツチ骨、キヌタ骨は第1鰓弓に由来し、アブミ骨は第2鰓弓に由来する。これらは胎性8か月まで間葉組織の中に埋没したままとなっている。原始鼓室が拡大し耳小骨が掘り出されると、耳小骨ははじめ腸間膜のような様式で鼓室壁に結びつけられ、後に靭帯によって固定されるようになる。
・・鼓室は肺胞に拡張して錐体乳突部の乳頭洞を形成する。これは出生時にはすでに成人と同じ大きさに達している。一方で乳突蜂巣は出生後に成長し、側頭骨の乳様突起を形成する。

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外耳
外耳道は第1鰓溝から発生する。胎性3か月でその底の上皮細胞が増殖して外耳道栓が形成されるが、7か月で融解し、その際に外耳道栓が鼓膜の形成に関与する。(図は中耳の1つめを参照)
耳介は第1,2鰓弓の6つの間葉組織が隆起し、のちに癒合することで形成される。この癒合は複雑なので異常が発生しやすい。
 
 
平衡聴覚器の完成形

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感覚細胞の分子的制御
Atoh1が発現すると有毛細胞に分化し、Hes1/5が発現すると支持細胞に分化する。有毛細胞ではJaggedとDelta1を発現しており、これにより隣接する細胞でNotchシグナルが活性化され、Hes1/5が発現する。Hes1/5はAtoh1を抑制するため、有毛細胞の隣に支持細胞が生じる。

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