発生学8 中枢神経系
中枢神経は発生3週に原始線条の前方に神経板が形成されることから出現する。神経板の外縁部はまもなく隆起して神経ヒダとなり、これの両側が癒着して神経管となる。癒着は頸部から頭尾方向にはじまり、頭側と尾側の両方に羊膜腔への開口部である頭側神経孔と尾側神経孔を形成するが、これは後にチャックを閉めるみたいなかんじでやっぱり閉鎖する。
脊髄
閉鎖直後の神経管壁は神経上皮細胞で構成されており、これが増殖することで神経上皮/神経上皮層を形成する。神経管が閉じると神経上皮は分化し、神経芽細胞となって神経上皮層を取り囲み蓋層/外套層を形成する。蓋層はのちに脊髄の灰白質となる。また蓋層の神経芽細胞から伸びた神経線維が蓋層の外側に縁帯とよばれる層をつくり、これは後に脊髄の白質となる。
神経上皮はダイヤ型をしており、その横の出っ張りを境界溝とよぶ。蓋層に神経芽細胞が増える結果 蓋層は背側と腹側で肥厚し、分界溝によって分けられる翼板と基板を形成する。翼板は背側で知覚性域となり、腹側の基板は運動性域となる。また、中心部の内腔は次第に縮小して中心管となる。
神経細胞と神経膠細胞
神経上皮細胞ははじめ対称分裂により2つの神経上皮細胞に分裂するが、後に非対称分裂を行うようになり、神経上皮細胞と神経芽細胞に分化するようになる。このとき神経上皮細胞はこのサイクルを繰り返すが、神経芽細胞は細胞分裂能がなくなる一方で分化を開始し、最初管腔に伸びる突起(一過性樹状突起)をだしたあと消滅し、無極神経芽細胞となる。これがさらに分化して両側に突起を生じて双極神経芽細胞となる。そこから一方が軸索に、一方が樹状突起となって多極神経芽細胞となり、さらに分化して神経細胞となる。この神経細胞のうち基板のものは縁帯を貫いて脊髄外にでるが、翼板のものは縁帯中を上行または下行して連合ニューロンを形成する。
神経膠細胞は神経芽細胞の生産がおわったあとの神経上皮細胞からうまれ、蓋層では形質性星状膠細胞と線維性星状膠細胞になる。また縁帯では稀突起膠細胞がうまれ、髄鞘を形成する。小膠細胞は間葉細胞に由来して中枢神経を生じ、食作用などをおこなう。神経膠細胞の生産を終えると、神経上皮細胞は脊髄中心管の内面を覆う上衣細胞となる。
脊髄神経節
神経板の陥入の際に生じた神経堤細胞は遊走して偽単極神経細胞となり、脊髄神経節を形成する。この細胞の樹状突起であるほうの突起は内臓などの感覚終末へと至る。また軸索のほうの突起は脊髄の背側部へ入り、後角に進入するか縁帯を上昇して高位大脳中枢へと至るかのどちらかとなる。
脊髄神経
前根は基板の神経が寄り集まって形成される。一方後根は脊髄神経管からの神経が集まって形成される(翼板のものではない)。また脊髄神経管から後根とは反対側に延びている神経線維は前根の神経と合流して脊髄神経を形成し、すぐに一次前肢と一次後枝にわかれる。
・一次後枝は背筋など一部のものだけを支配し、一次前肢は内臓などで神経叢を形成するなどいろいろなものを支配する。
髄膜
神経管の周囲の間葉組織が密集し、原始髄膜を形成する。この膜の外層は肥厚して硬膜となり、内層は薄いまま軟膜とクモ膜に分化する。
脊髄の位置
発生第3か月には脊髄は胚子の全長に及んでおり、脊髄神経はそれぞれの起始の高さの椎間孔を通過する。しかしその後脊柱と後膜のほうが神経管よりも急速に成長するため、脊髄神経と椎間孔はズレ、また末端では脊髄の長さが足りなくなる。このため下端付近からは神経と軟膜が糸状に伸びて終糸をつくる。また、下肢、骨盤へ分布する神経の束である馬尾が形成される。
・・馬尾の位置はクモ膜下腔であり脳脊髄液があるため、腰椎穿刺で使われる。
脊髄分化の分子的制御
・BMP4、BMP7と抑制性のShhによって、PAX3、PAX7、MSX1、MSX2が部位ごとにパターンをなして発現する。
・Shhが腹側から働くことで神経管が腹側化し、底板域Fが形成される。底板でもShhが発現し基板には運動性ニューロンが生じる。一方で背側ではShhの抑制の効果から遠くBMPによるPAX3とPAX7の発現が維持されているため、知覚性ニューロンを作る翼板となる。
脳
神経管の頭方端には前脳・中脳・菱脳(後脳ともいう)の3つの拡張部(一次脳胞)が形成される。ここで、中脳屈/頭屈と頸屈が同時におきる。この際の頸屈が菱脳と脊髄の境目を形成する。
さらに発生5週目になると前脳は側方突出部である原始大脳半球とその中間部からなる終脳と、眼胞の膨出がある間脳にわかれる。また中脳は菱脳峡/峡によって菱脳から分けられる。さらに菱脳も橋屈によって2つに分かれ、脳と小脳になる後脳と、髄脳ができる。(二次脳胞の形成)
脊髄の腔である中心管は脳胞と連続しするが、大脳半球の腔は側脳室、間脳の腔は第3脳室(側脳室が2つあるから第3?)、菱脳の腔は第4脳室という。第3脳室と第4脳室は中脳の腔で連結するが、これは非常に細くなっているため中脳水道/シルヴィウス水道とよばれる。また、側脳室と第3脳室はモンロー室間孔で交通する。
髄脳
髄脳からは延髄が生じるが、ダイヤ型ではなく扇型のような形になっているところが脊髄と異なる。脊髄と同様に基板と翼板があるが、これらはそれぞれ3つの核にわかれる。
内側から外側へ(図で下から上に)
- a,一般体性遠心性の核群 舌下神経の核を含む。(※脊髄前角細胞群のものと連続)
- a,特殊内臓性遠心性の核群 副神経、迷走神経、舌咽神経の核を含む
- a,一般内臓性遠心性の核群 不随意筋を支配する運動性ニューロンを含む
- b,一般内臓性求心性の核群 消化管および心臓の神経をうける
- b,特殊内臓性求心性の核群 舌、口蓋、咽頭などからの神経をうける
- b,一般・特殊体性求心性の核群 三叉神経(一般)、内耳神経核群(特殊)を含む
・・・体性・内臓性・内臓性・体性。体性遠心性と体性求心性はなんかタイプが違う感じがして、端どうし。内臓性は似た感じがするから近い・・・。また一般よりも特殊のほうが反発力がつよいかんじ。
髄脳の蓋板は脈管を含む脳軟膜によって覆われた単層の上衣細胞から構成され、脈絡固有組織という。ここに脈管を含む間葉が活発に増殖することで脳室に向かって脈絡叢なる突出が形成され、脳脊髄液を生産する。
後脳
後脳からは橋と小脳が形成される。橋は延髄から連続するような部分であり、小脳は図の上側に新たに形成されるような形で生じる(菱脳峡の図も参照)。
-橋
後脳(おもに橋の部分)は髄脳と似たような構造で6つの核がある。
- a,体性遠心性の核群 外転神経の核を含む
- a,特殊内臓性遠心性の核群 三叉神経と顔面神経の核を含み、第1,2鰓弓を支配する。
- a,一般内臓性遠心性の核群
- b,一般内臓性求心性の核群
- b,特殊内臓性求心性の核群
- b,体性求心性の核群 三叉神経(一般)と前庭神経核、蝸牛神経核(特殊)
翼板の背外側方部は内側にまわり(上図も参照)菱脳唇を形成する。橋屈がさらに深くなる(図1が谷折りになっていく、図2)結果、菱脳唇は頭尾方向に圧迫されて小脳板となる。まもなく小脳板下方には横裂ができ、片葉と小節が上部より分離される。
・・ゆえに小脳は翼板由来。
はじめ小脳板は神経上皮、蓋層、縁帯からなっているが、その後神経上皮によって形成された翼板背側部の位置に相当する部位の多数の細胞が小脳の表面に遊走して外顆粒層を形成する。この層の細胞は分裂能を保持しており増殖し、小脳を突出させるとともに表面ののヒダ状の構造が形成される。また表面に遊走しなかった翼板の他の神経芽細胞のなかには髄質中に小脳核を形成するものもあり、その中で最大のものが歯状核とよばれる。また外層の表層には小脳皮質に特有な大型のプルキンエ細胞が発生し始める。
外顆粒層では様々な細胞が分化するが、それらは分化中のプルキンエ細胞に向かってこんどは内側へ遊走して顆粒細胞などになり、顆粒層を形成する。こうして小脳に特有な、分子層−プルキンエ細胞層−顆粒層という皮質の3層構造と、髄質とそのなかに存在する(深部)小脳核という構造が形成されるが、それがその最終的な大きさに達するのは生後である。
中脳
中脳では基板は動眼神経と滑車神経を含む体性遠心性核群と、瞳孔括約筋を支配する核(エディンガー・ウェストファール核)で代表される内臓性遠心性核群からなる。基板の縁帯は大きくなって大脳脚を形成し、大脳皮質から下位の中枢に下行する神経線維の通路となる。
背側では、翼板が成長することによって隆起が形成される。発生がすすむとこの隆起は溝によって頭尾方向で2分され、隆起が上丘と下丘に分かれる。上丘と下丘(四丘体)は、神経芽細胞が翼板から縁帯へと波のように移動してくることによって形成され、層状構造を示す。上丘は視覚反射に関係し、下丘は聴覚反射に関係する。
前脳
-間脳
翼板は間脳の側壁を形成するが、視床下溝という溝によって視床と視床下部に分割される。視床はその後増殖して第3脳室内に突出し、一部では左右が癒合して視床間橋/中間質が形成される。視床下部では多数の核域が生じるが、なかでも乳頭体が腹側面に明瞭な隆起をもたらす。
・・図では乳頭体は縁帯にあるようにみえるけれど、やっぱり核だから蓋層に属するはずで・・・と思ったら、どうやら翼板から表面へとほんとにとびだしてるみたい。
下垂体は口窩の外胚葉性天蓋がポケット状に膨出したラトケ嚢と、間脳神経性外胚葉の下方への伸長である漏斗から形成される。これらはどちらも外胚葉だが、一方は神経性で他方は違うことが重要である。
胚子が3週に達するとラトケ嚢は口窩の膨出として現れ、漏斗に向かって背側に成長する。後にラトケ嚢は口窩との連絡を失い漏斗と密接するようになる。その後ラトケ嚢の前壁が活発に増殖して下垂体前葉=腺性下垂体を形成する。一方で後壁は中間部となるが、ヒトではほとんど意味がない。また、漏斗は下垂体後葉=神経性下垂体を形成する。
終脳
終脳は2つの大脳半球とその中央部の終板から構成される。大脳半球の腔である側脳室は、モンロー室間孔を通じて第3脳室と交通する。
-大脳半球
胎性2か月ごろまでに大脳半球の基部が肥大することにより線条体が形成され、これが室間孔と側脳室腔に突出する。また大脳半球の内側壁には非常に薄くなる部分があり、脈絡裂とよばれる。この脈絡裂から脈絡叢が側脳室内にはみ出す。脈絡裂のすぐ上の半球壁は逆に肥厚し、ここに海馬が形成される。
また大脳半球が成長し屈曲することで、線条体や側脳室はC字型を呈するようになる。
その後、大脳皮質が分化するに従って大脳皮質に出入りする神経線維(内包)が線条体を通過するため、線条体は背内側の尾状核と腹外側の被殻(図ではレンズ核となっているが、レンズ核は被殻+淡蒼球(発生由来が線条体と異なる)の総称であるため訂正した)に分割される。
大脳半球がさらに成長する結果、前頭葉、側頭葉および後頭葉が形成される。しかし線条体がかぶさっている部分は成長が遅く島を形成するが、これはC字型になった前頭葉と側頭葉に覆われてしまう。大脳半球の表面は胎性の末期に極めて急速に発達するため、表面には裂と溝で分けられた多数の脳回があらわれる。
・・大脳の正中部にのこった間葉は左右の半球をわけるヒダ状組織である大脳鎌となる。
皮質の発生
大脳皮質は外套層から発生するが、これは2つに分けられる。ひとつは線条体のすぐ側方の古皮質で、もうひとつは海馬と古皮質にはさまれた新皮質である。
新皮質では新しい神経芽細胞が古い以前のものよりも表層にくるため、表層ほどあとから形成された神経芽細胞が位置する。出生時に皮質が重層様構造をみせるのは、神経芽細胞がこのまま層をなして分化するためである。
・・発生の際に新しくできた新皮質が古皮質を側方に追いやっていくかんじになる。
嗅球
鼻腔の天井の外胚葉に嗅上皮が生じるとともに、終脳の底でも嗅球ができる。そして嗅上皮から嗅球へと嗅神経がのびていく。
交連
大脳皮質が発達するにつれて、一群の神経線維(交連)が対応する大脳半球の対応する左右の領域を連絡する。このなかで重要なものは、前脳の真ん中にあった終板を利用するものである。
末梢神経系はほとんどは神経堤から発生する。末梢神経系において知覚神経の細胞体は中枢神経系の外に位置しているが、それらはすべて双極性の神経細胞である。しかしラセン神経節と前庭神経節を除いてその2本の突起が癒合し、偽単極性のニューロンとなる。
脊髄神経
前述の脊髄を参照(→脊髄)。
脳神経
発生第4週までに12対の脳神経のすべての核が存在する。嗅神経と視神経以外の神経はすべて脳幹から起始し、そのなかで動眼神経だけが菱脳ではなく中脳から生じる。運動ニューロンの核は脳幹内にあり知覚神経の核は脳の外にあるというように構造は脊髄神経と同様だが、すべての神経が運動神経と知覚神経を両方持つわけではない。
・・知覚神経節の起源は鰓弓の背側にある外胚葉性プラコード(三叉、顔面、舌咽、迷走)と、神経堤細胞である。副交感神経節は神経堤細胞に由来し、それらは動眼、顔面、舌咽、迷走神経にふくまれて標的に至る。
−体性遠心性脳神経
滑車神経4、外転神経6、舌下神経12と、動眼神経3の大部分で、脊髄神経の前根と相同。舌下神経は数本の神経の根が癒合して形成される。
−鰓弓神経
三叉5、顔面7、舌咽9、迷走10(と反回)は、それぞれ1,2,3,4−6鰓弓から発生する。ただし、三叉神経の枝 眼神経は、鰓弓由来ではないものをふくんでいる。
−特殊感覚神経
自律神経系
-交感神経系
胸部神経堤由来の細胞が遊走して交感神経幹を形成する。また末梢での神経節を形成する。交感神経幹が完成すると、脊髄(T1~L3)の側角/内臓性遠心性核柱に起始する神経線維がこの神経幹に侵入するか、白交通枝や灰白交通枝などを利用するかなどする。
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--副腎
皮質は中胚葉から、髄質は神経堤から発生する。腸間膜根部と生殖腺の間に位置する間葉が増殖して胎性皮質が形成され、そこに遊走してきた髄質が侵入する。その後、中皮から遊走してきた細胞がさらに皮質をとりまき、皮質の層を形成する。
・髄質を形成する遊走してきた細胞はクロム塩で褐色に染まるためクロム親和細胞ともよばれる。このようなクロム親和細胞は胎性期間中は胚子の体内に広く存在しているが、成人では細胞集団が残っているのは副腎髄質だけとなる。
・・神経堤に由来しているが神経節と異なる組織になるものをパラガングリオンという。副腎髄質や頸動脈小体など。
-副交感神経系
脳幹部および脊髄の仙髄部にあるニューロンが副交感神経の節前線維を生じる。
脳分化の分子的制御
神経管の発生は神経分節/脳分節/neuromereという分節構造から形成されている。前脳は前脳分節p1−p6,中脳は1つの中脳分節m、量のは菱脳分節r1−r8からなる。(ただし峡をr0とすることやr8をみとめないことがある)
分化の際、峡はFGF8によってを分泌して中脳に視蓋を誘導するなど、オーガナイザーとして機能することがわかっている。
中脳と前脳もHOX遺伝子によって制御されるが、新しい脳であるためかそのクラスが異なる。
・これらによって境界が画定されると、つぎに前神経ヒダ/ANRと峡に新たな組織化中心が出現する。
・ANRではFGF8が脳因子1の発現を促進し、峡ではFGF8がエングレイルド1、2/EN1,EN2の発現を誘導する。
・EN1は中脳背側部と菱脳前方部の小脳の部分に発現しこのあたり全体の成長に関係するが、EN2は小脳の部分の発育にだけ関係する。
・腹側のパターン形成は、Shhによって誘導されるNKX2.1が関係しており、視床下部の発達を制御する。
・それより尾側では、ShhとBMP4、BMP7によって制御される(→脊髄の分子的制御)。